2024年11月22日、注目を集める生成AI開発プラットフォーム「miibo」の最新動向を知ることができるイベント「miibo Partners Conference」が開催された。本レポートでは、実際に参加した筆者が、イベントの様子とmiiboが目指す未来について詳しく報告する。
イベント概要と会場の雰囲気
miibo Partners Conferenceは、オンライン・オフライン同時開催の形式で実施された。会場には多くの参加者が集まり、miiboスタッフの親しみやすい対応も相まって、終始和やかな雰囲気に包まれていた。特筆すべきは、参加者同士の交流も活発で、miiboを活用したビジネス展開について、熱心な情報交換が行われていた点だ。
CEOが語る、miiboの現状と未来像

技術的課題への真摯な取り組み
イベントの冒頭、miibo CEO の功刀雅士氏から、現在のmiiboが直面している課題と、その解決に向けた取り組みについて説明があった。特に注目すべきは、以下の3つの技術的課題だ。
- 適切なRAG設計 (※RAG: Retrieval-Augmented Generation の略。既存の文書やデータベースから関連情報を検索・抽出し、それを基に的確な回答を生成する技術)
- 回答精度の担保
- PDCA体制の確立
これらの課題は、特にカスタマーサポートAIの提供を検討しているパートナー企業からの要望を反映したものだという。また、システムの設定やメンテナンスの簡便性向上についても、多くの意見が寄せられているとのことだった。
パートナー支援の強化施策
miiboは、これらの課題に対応するため、以下の3つの施策を展開している。
- パートナーコミュニティでの情報連携(Discord)
- YouTubeでのmiibo攻略情報発信
- パートナー限定メルマガ配信(新機能リリース情報を含む)
生成AI導入の現場が抱える課題と解決策
なぜAIの現場導入は難しいのか
イベントでは、AIアプリケーションの現場導入における課題について、興味深い分析が示された。生成AIは十分な魅力を持っているにもかかわらず、なぜ現場への浸透が進まないのか。その主な障壁と対処法について、以下のようにまとめられた。
- 要件定義の困難さ
- 対策:一問一答式の要件定義シートの活用
- プロジェクト途中での要件拡大
- 対策:初期設定時に理想的な会話パターンを合意
- ナレッジの未整備
- 対策:適切なドキュメンテーションフェーズの設定
- 精度向上の停滞
- 対策:誤回答事例の分析とナレッジ・プロンプトの継続的改善
- ローンチ判断の困難さ
- 対策:事前の精度水準設定と継続的な検証
B2B生成AIサービスの効果的な販売戦略
「100聞は1デモに如かず」の法則
イベントの中で特に印象的だったのは、井橋哲平氏による生成AIサービスの販売戦略についてのセッションだ。氏は「生成AI構築サービスは、セールスシートだけでは販売が難しい技術である」と指摘。その上で、「100聞は1デモに如かず」という言葉を用いて、デモンストレーションの重要性を強調した。
効果的なセールスの6ステップ
miiboにおける新規セールス時の基本的な流れが、以下の6ステップとして紹介された。
- 前提説明(5-10分)
- miiboの基本概念の説明
- デモンストレーションの意義の説明
- リアルタイムデモ(15-20分)
- クライアント企業のウェブサイトを元にした5分間のAI作成
- 主要機能の実践的な説明
- クライアントによる質問体験
- 主要機能の詳細説明(10-15分)
- ナレッジDB以外のRAG手段の説明
- AI分析機能の解説
- 多言語対応機能の紹介
- PDCA運用の重要性説明(10分)
- 運用最適化の重要性の強調
- 非エンジニアによる運用可能性の説明
- 事例紹介と料金プラン説明(5-10分)
- 質疑応答(20-30分)
要件定義の重要性
セッションでは、AI開発における要件定義の重要性も強調された。具体的には、以下の項目について明確化することが推奨された。
- AIの目的と性質
- ターゲットユーザー
- 解決すべき課題
- 目標とする状態
- 利用環境
- その他の考慮事項
プロジェクトのゴール設定
生成AI構築プロジェクトにおけるゴール設定の難しさについても、詳しい解説があった。従来のシステム開発との違いを明確にしながら、以下のような比較が示された。
【従来システム vs 生成AI】
- 一貫性:高い vs 変動的
- プロセス対応:固定的 vs 柔軟
- 開発手法:ウォーターフォール型 vs アジャイル型
- 評価基準:業務タスク効率性 vs ユーザー評価・プロセス全体
PDCAサイクルの確立と実践
運用最適化の重要性
イベントを通じて繰り返し強調されたのが、PDCAサイクルの重要性だ。特に、以下の点が強調された。
- デプロイよりも運用最適化が重要
- 非エンジニアでもPDCAを回せる仕組みの必要性
- 継続的な改善の重要性
プロジェクトステップの可視化
miiboサービスは、大きく6つのステップで構成されることが説明された。
- 要件整理
- AI開発(AI開発初期費用)
- 検証と最適化
- UI実装(UI実装費用)
- ローンチ
- 運用/最適化(運用費用)
miibo Use Case Hub の立ち上げ
新たなコミュニティの誕生
イベントの後半では、株式会社こころみ取締役COO 森山裕之様から、「miibo Use Case Hub」の立ち上げが発表された。これは、以下の目的を持つ新しいコミュニティ施策だ。
- miiboおよび会話AIのビジネス活用シーンの深耕と共有
- BtoB領域での実践的なAI活用事例の学習と活用
- miiboユーザー間での知見・経験の共有
参加対象と条件
Use Case Hubは、以下を対象としている。
- ソリューション提案を行うソリューションパートナー
- 開発を担う開発パートナー
参加条件として以下が示された。
- 積極的な情報共有姿勢(Take & Give)
- miiboやAIを活用したビジネス創出への強い意欲
開催形式
- 頻度:2ヶ月に1回程度
- 場所:パートナー企業もしくはmiibo社オフィス
- 内容:事例共有とディスカッション
イベントを通じて感じた、miiboの可能性と展望
実際にイベントに参加して特に印象的だったのは、miibo社スタッフの親しみやすさと、参加者同士の活発な交流だ。交流会では、参加者それぞれが持つmiiboの活用アイデアや課題について、率直な意見交換が行われ、新たなビジネスの可能性を感じさせる場面も多々あった。
技術と人のバランス
miiboが目指しているのは、単なる技術プラットフォームの提供ではない。技術的な課題解決と人的なコミュニティ形成の両面から、生成AIの事業活用を支援する総合的なエコシステムの構築だ。この方向性は、今後の AI 活用において極めて重要になると考えられる。
継続的な改善と成長
イベントを通じて強調されていたのは、生成AIプロジェクトにおける「継続的な改善」の重要性だ。完璧な精度を目指すのではなく、運用しながら改善を重ねていく方針は、現実的かつ効果的なアプローチと言える。
まとめ:miiboが描く未来
miibo Partners Conferenceを通じて、miiboが目指す未来像が明確に示された。それは、技術的な優位性を追求しながらも、人的なつながりを大切にし、パートナーとともに成長していく生態系の構築だ。
特に印象的だったのは、課題に対する真摯な向き合い方と、解決に向けた具体的なアプローチの提示だ。RAG設計や回答精度の向上といった技術的課題から、パートナー支援の強化まで、包括的な取り組みが進められている。
また、新たに立ち上げられるmiibo Use Case Hubは、単なる情報共有の場を超えて、参加者同士が互いに高め合えるコミュニティとなることが期待される。
生成AIの実用化が進む中、miiboはプラットフォームとしての技術的進化と、エコシステムとしての発展を両立させようとしている。今回のイベントは、その方向性と具体的な施策を確認できる貴重な機会となった。